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科学の忘れもの

この世界で起こることすべては、いずれ科学で説明がつき、技術で再現することができる、という考え方があります。
もしそれが本当だとしても、実現できるのは遠い将来のこと。
おそらく科学や技術が進歩するほど、世界の謎は深まるばかりという方が、ありそうな未来です。
すでに科学技術によって解決済みとされているテーマにしても、よくよく見直してみれば、落としものや忘れものだらけ。
しかもそれらは、いちばん大切で、しかも日々の生活のすぐそばにあったりするようです。
たとえば、勘や気配や予感をはじめ、合理的に説明されたように思えても、どこか腑に落ちないものは、決して少なくありません。
思えば現代文明はずいぶんたくさんの忘れものをしてきてしまいました。
しばしの間、立ち止まって、あれこれ思い出してみるときが来ているのかもしれません。
来るべき科学や技術の種は、そんな忘れものの中で、見つけられるのを、いまや遅しと待っているのです。

堀場製作所

世界のトイレ文化をリードする、水を操る技術。

1980年に誕生し、温水洗浄便座の代表格となったTOTO株式会社の「ウォシュレット」。
累計4,000万台を越え、日本だけでなく世界のトイレ文化にイノベーションを起こした製品である。
節水と省エネルギーを追求しつつ、感性工学に基づく吐水技術の改良が常に重ねられ、世界一とも言われる日本の快適なトイレ体験を進化させている。

ウォシュレットとトイレ革命

1980年に登場したTOTO株式会社の「ウォシュレット*」は、1982年の「おしりだって、洗ってほしい。」のTVCMで認知を広め、温水洗浄便座の代表格となっています。そもそも温水洗浄便座は欧米で開発されたもので、医療・福祉向けの製品でした。TOTOを含め日本メーカーは温水洗浄便座を輸入して販売していましたが、後に自社製造にも取り組みました。TOTOが便器に変わる新しい事業の柱として、温水洗浄便座の独自開発を進めて製品化したのがウォシュレットでした。

他社からも同種の製品がいくつか発売されていますが、多くの日本人がトイレで温水洗浄便座を見ると「ウォシュレットがついている」と言ってしまうのは、便利さ、快適さ、きれいさを求めて、TOTOが優れた吐水技術の研究開発に取り組んできた成果なのでしょう。

日本のトイレが和式から洋式に変わっていくとともに、ウォシュレットも販売台数を伸ばしていきます。2015年7月には累計出荷台数が4,000万台を越えました。今では一般家庭だけでなく、駅、店舗、オフィスビル、公共施設などのトイレにも設置されるようになりました。日本を訪れた外国人観光客が買い求めていくことも多く、ウォシュレットは日本を代表する工業製品となっています。

初代のウォシュレットにはお湯を貯蔵しておくタンクが付いていて、このお湯を貯蔵するタイプ(貯湯式)は、90年代には1分間に1,000~1,300ミリリットルの温水をお尻(肛門)にかけることができました。温水は、斜めに伸長したノズルから斜め上方に43度の角度で吐水され、お尻から跳ね返ってきた温水がノズルを汚さないようになっています。この43度の角度は、今に至るも変わっていません。

しかし1,300ミリリットルの温水タンクは狭い日本のトイレには大きすぎるため、TOTOではタンクの小型化と内蔵を進めます。一方、瞬間加熱で冷水(0度)を温水(37.5度)にすることでタンクを不要とする瞬間湯沸かしタイプ(瞬間式)も1980年から販売していたのですが、湯量に課題がありました。では家庭用の1,200ワットの電力を用いて、1分間でどれくらいの冷水を温水にできるのでしょうか。答えは430ミリリットル。

元々1,300ミリリットルの温水で洗っていたのを、430ミリリットルにただ減らしたのでは、使う側の洗い心地も下がってしまいます。そこで「少ない温水でもたっぷり洗っていると感じられる」ような吐水技術の研究がスタートします。そこで用いたのが、人間の感覚を科学的に研究することで製品やサービスの開発に活かそうという感性工学からのアプローチでした。

エアインワンダーウェーブ洗浄

吐水技術の研究で洗い心地を追求

洗い心地という人によって感じ方が異なるものを分析するために、様々な研究が行われました。その中で分かってきたのが、お尻周辺の皮膚は意外と敏感ではないということ。同時に針を2本当てた時に、指先は5ミリ以下でも感知しますが、お尻は45ミリ以下なら2本だと気づきません。また細かい振動に対しても鈍感であるということも分かってきました。つまり、お尻は意外と鈍い部位なのです。ならば温水の当たり方を工夫することで、少ない水量でもたっぷりの水が当たっているように「錯覚させる」ことができるのではないか。TOTOでは水を操る、吐水技術の研究開発に取り組むことになります。

最初は水に空気を混入することで体積を増やす方法で、少ない水量でもたっぷり感が出る効果があります。現在のウォシュレットでは「ビデ」や「やわらか」のように、しっかりよりも優しさを重視した機能で使われています。

次は空間的に水を間引くことで広範囲に水が当たっていると感じさせる「ワンダースピン」という手法です。強くて細い水を、お尻が感じるよりも早くグルグル円を描くように動かすことで、水が当たっている範囲の全体で強い水量を感じることができます。現在ではお風呂用のシャワーに応用されています。

そして最も節水効果があるのが、時間的に水を間引いて、水玉を当てる方法です。水玉は高速にお尻に当たるために、一粒一粒を感知できずに、連続的にずっと水が当たっているように感じます。

水玉をつくるために、水のスピードを周期的に変化させ、先に出た遅い水に後から出た速い水がちょうどお尻の位置で追いついて、大きな水玉を形成するのが「ワンダーウェーブ洗浄」という洗浄技術。ウォシュレットの高級機種に搭載されるようになります。さらにTOTOでは、高価格帯ではない機種にも、ワンダーウェーブ洗浄のような時間的に間引く水玉吐水機能の導入を検討。そこで開発されたのが「バルーンジェット技術」です。ワンダーウェーブでは特別な制御装置を利用していましたが、バルーンジェットでは水と空気だけを用いて、水玉をつくり出すことに成功しました。

洗い心地をとことん追求し続けるTOTOの技術開発はさらに発展し、現在は「エアインワンダーウェーブ洗浄」へと進化しています。

日本機械学会から機械遺産に認定されている初代「ウォシュレットG」

世界一きれいな日本のトイレ

TOTOはウォシュレットの吐水技術を進化させるだけでなく、日本人にとってのトイレ空間を大きく変える試みにも取り組んできました。トイレ特有の匂いを消す脱臭機能、汚物を少ない水でしっかり洗浄する機能、水を電気分解して得られる「きれい除菌水」の利用、汚れが付きにくく掃除しやすい便器デザインなど、現在のトイレは「ご不浄」と呼ばれた時代とは一線を画し、きれいな空間になりつつあります。

きれいなトイレは家庭だけでなく、オフィスや商業施設、駅や高速道路のSAなどパブリックスペースにも広がっています。日本を訪れた外国人観光客は日本のトイレのきれいさに驚くといいます。観光地では、快適できれいなトイレを提供することが「おもてなし」になっています。世界一きれいな日本のトイレ文化は、海外にアピールできる日本の重要コンテンツなのかもしれません。

*「ウォシュレット」はTOTO株式会社の登録商標です

ウォシュレット一体形便器「ネオレストNX」