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科学の忘れもの

この世界で起こることすべては、いずれ科学で説明がつき、技術で再現することができる、という考え方があります。
もしそれが本当だとしても、実現できるのは遠い将来のこと。
おそらく科学や技術が進歩するほど、世界の謎は深まるばかりという方が、ありそうな未来です。
すでに科学技術によって解決済みとされているテーマにしても、よくよく見直してみれば、落としものや忘れものだらけ。
しかもそれらは、いちばん大切で、しかも日々の生活のすぐそばにあったりするようです。
たとえば、勘や気配や予感をはじめ、合理的に説明されたように思えても、どこか腑に落ちないものは、決して少なくありません。
思えば現代文明はずいぶんたくさんの忘れものをしてきてしまいました。
しばしの間、立ち止まって、あれこれ思い出してみるときが来ているのかもしれません。
来るべき科学や技術の種は、そんな忘れものの中で、見つけられるのを、いまや遅しと待っているのです。

堀場製作所

味覚、健康、食文化の複雑な関係。

甘さ、塩味、酸っぱさ、苦さ、そして出汁の旨味。
あなたは自分の味覚を意識したことがあるだろうか。
年齢とともに変化していく味の好みや味覚障害の話。
楽しみながら味覚力を判定できるテスト、味覚と食文化、味覚と食品偽装など、味覚鑑定士が語る日本人と味を巡る意外な関係とは。

年を取ると「しょっぱい味」を好む理由

人間の味覚として、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の5つが知られています。この中で、酸味は腐敗したものを食べないようにするために、苦味は毒を感知するために、進化の過程で発達してきたと考えられています。
唐辛子で丼が真っ赤になるような激辛ラーメンを好む人もいますが、辛味は痛みとされていて、味覚ではありません。

味を感じるのは舌にある味蕾という細胞で、子どもの時が一番発達していて、年齢とともに衰えていきます。

「みなさんは自分の味覚力に自信がありますか? 視力や聴力は健康診断で検査項目に入っていますが、味覚を検査する機会はなかなかありませんね」

一般社団法人日本味覚協会の味覚鑑定士・水野考貴さんは、学校や企業、自治体などで味覚についてのセミナーを開催しながら、味覚を意識する重要さを訴えています。

「食品メーカーを対象に、社内で味覚の評価を行う人のための官能検査などを行っています。これで高成績を納めた人が製品開発に参加しているようです」

味覚力の良し悪しがすぐに生活に影響を及ぼすわけではありません。しかし、味覚力は毎日の食生活と深い関係にあるので、長期的には健康問題と関わってくるといいます。

「おばあちゃんの家に行った時に食べる味噌汁がしょっぱいと言う子どもがいます。ある老人ホームでは、入居者の多くが、出てくる食事が味が薄くて、美味しくないと不満をもらすそうです。また長寿日本一で知られるある県は、食塩摂取量でも日本一です。年齢とともに味覚力が衰えて、味が濃い食事を求めるようになると、塩分が多い食事になりがちです」

塩分の取り過ぎは高血圧などの生活習慣病の原因にもなります。和食に多く含まれる旨味は、塩といっしょに食べるとさらに美味しく感じられるので、塩分過多になりやすいようです。

「どういう味を好むかは、人それぞれなので難しいのですが、極端に濃い味付けを好むようなら、その人の味覚に問題があるのかもしれません」
味覚障害には、味が分からないとか、何を食べてもしょっぱく感じたり、苦く感じたりする症状があります。原因の7割くらいは他の病気で飲んだ薬の副作用で亜鉛不足になることが原因と言われています。

「またどこからを味覚障害かと言うのも難しいのです。水に砂糖が0.35%含まれていれば、半分の人は甘いと感じます。では砂糖が5%含まれる水(コーラは10%)を飲んで、甘く感じないなら味覚障害かどうかは、その人の好みにも左右されるので、医師によっても意見が分かれています」

味覚診断と味覚検定チョコ

日本味覚協会では、セミナーの他に次のような味覚診断を行っています。

❶――原材料識別テスト
いちご、オレンジ、グレープフルーツ、レモン、ぶどう、りんご、バナナ、にんじんなどから、3種類の食材を混ぜたミックスジュースの中身を当てるテストです。

❷――高級品識別テスト
高級チョコレートと普通のチョコレートを目隠しした状態で食べて、どちらが高級チョコレートかを当てるテストです。

❸――味覚の記憶力テスト
まず最初に黄桃を食べて、その味を記憶しておきます。その後、3種類の桃(黄桃1種類、白桃2種類)を食べて、最初に食べた黄桃と同じものはどれかを当てるテストです。

❹――味覚の感知力テスト
水の中に微妙含まれている5つの味(甘味・塩味・酸味・苦味・旨味)成分を当てるテストです。

「調理師学校でこのテストを行うと、平均スコアは良くなります。一方で、シェフの方でも味覚力が弱い方もいます」

味覚診断を受けられた方から、自分でもやってみたいという要望に応える形で、日本味覚協会で開発したのが「味覚検定チョコ」です。味覚の成分を含むチョコを食べ比べることで自分の味覚力を判定することができます。

「判定の難しさに応じて3種類の検定チョコを製品化しました。EASYはどちらのチョコが苦いかを食べ比べるもので、正解率は70%。NORMALは5つの味(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味)を判断するもので、正解率は10%と難しくなります。そして正解率1%なのがHARDで、NORMALをクリアした人はぜひ挑戦してみてください」

優れた味覚力が日本の食文化を守る

味覚は食文化と密接に関わる能力でもあり、その人が育った環境に大きく影響されます。
「例えば様々な発酵食品の多くは、食べ慣れていない人が食べれば、『腐ってる!』と思うことでしょう。でも長い歴史の中で、それを美味しいものとしてきた食文化があるのです。日本人にはおなじみの食材を外国人が嫌ったからとして、外国人の味覚がおかしいわけではありません。逆の場合も、日本人の味覚が変だと思う必要はないのです」
水野さんは、日本人が味覚に関心を持つことでより豊かな食文化を守っていけるのではないかという。
「レストランはインターネットの評価サイトで人気だから……ではなく、何よりも食べた人が美味しいと判断したことで評価されてほしいと思います。味に無頓着なお客さんばかりなら、店側が料理のレベルを下げるかもしれません。逆にしっかりとした味の評価ができるお客さんが多ければ、日本の食文化はもっと発展していくはずです」
食べる側に「これはおかしいんじゃないか」と思えるだけの味覚力があれば、食品偽装をする店も減っていくはず。奥さんがいつもの料理に加えた隠し味に、「これは○○だね」と気がついてくれる旦那さんなら、夫婦の食卓も円満になるというものでしょう。

日本味覚協会が開発した「味覚検定チョコ」