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科学の忘れもの

この世界で起こることすべては、いずれ科学で説明がつき、技術で再現することができる、という考え方があります。
もしそれが本当だとしても、実現できるのは遠い将来のこと。
おそらく科学や技術が進歩するほど、世界の謎は深まるばかりという方が、ありそうな未来です。
すでに科学技術によって解決済みとされているテーマにしても、よくよく見直してみれば、落としものや忘れものだらけ。
しかもそれらは、いちばん大切で、しかも日々の生活のすぐそばにあったりするようです。
たとえば、勘や気配や予感をはじめ、合理的に説明されたように思えても、どこか腑に落ちないものは、決して少なくありません。
思えば現代文明はずいぶんたくさんの忘れものをしてきてしまいました。
しばしの間、立ち止まって、あれこれ思い出してみるときが来ているのかもしれません。
来るべき科学や技術の種は、そんな忘れものの中で、見つけられるのを、いまや遅しと待っているのです。

堀場製作所

当たり前じゃないタオルの話。

赤ちゃんから老人まで、誰もが毎日使うタオル。
直接肌に触れる製品として、これほど身近なものは他にない。
その素材は人類が数千年前から使い続けている綿である。理想のタオル、使い心地の良いタオルの条件はどんなものか。
国内生産にこだわり、綿が持つ吸水性を100%引き出す努力を重ねているメーカーのこだわりとは何か。

国内生産にこだわるタオルメーカー

誰もが毎日使うタオル。汗をかいた時、手を洗った時、風呂から上がった時、肌についた水分を拭き取ってくれるタオル。化学繊維を使った製品もありますが、ほとんどのタオルは綿100%です。

綿は吸水性に優れた素材で、繊維の先端が丸くなっているために刺激も少なく、肌に触れた感覚が良いという特長があります。実は元来、綿自体は多くの油分を含んでいて水を弾きます。ところが人類は文明のどこかで、綿花から油分を取り除くことで、逆に吸水性に優れた素材にできることを発見したようです。様々な新素材が開発されていても、綿は人類が最も身近に感じる自然素材の座を守り続けています。

タオルが日本に入ってきたのは江戸時代といわれています。東京都青梅地区で、夜具地(布団や座布団用の布地)や服地などを生産していた梅花紡織(現ホットマン株式会社)は、「これからはタオルの時代になる」と考え、1963年よりタオル生産を開始しました。当時タオルは一番安い太い糸を使うという業界の常識に反し、ホットマンではそれまでの経験を生かした上質で細い糸を使ってタオルの生産を始めます。それにより同社のタオルは高級品として人気を集めます。

一般的にタオルの生産では、分業化が進んでいますが、ホットマンでは企画・デザインから織布、染色、裁断、縫製、物流までを自社で一貫して行っています。さらに全国に直営店を持ち、自社のタオルをお客様に直接届けることにこだわっています。日本で流通するタオルの80%が輸入品になっている現在、自社で全ての工程を管理しながら、生産を続けているのは国内メーカーではホットマンだけです。

高い吸水性を誇るホットマンの「1秒タオル」

感性工学でも答えが出ない理想のタオル

ホットマン代表取締役社長の坂本将之さんは信州大学繊維学部の出身です。

「国公立大学で繊維学部が残っているのは信州大学だけです。私は感性工学科の一期生です」

感性工学は人の感性と工学を融合させる学問で、ホットマンでは現在も信州大学と共同で理想のタオルを作るための研究を続けています。

「例えば、人が柔らかいと感じるタオルを物理的な数値でどう計測すればいいのか。官能検査などを行っていますが、まだまだ分からないことが多いのが現実です。タオルにおもいがある人とそうでない人では、同じ品質の商品であっても評価が全く違います。人間の感覚はひとつの指標で表せるものではなくて、複数の指標と個人の思考が複合したものです。またタオルの表面から受け取る刺激だけでなく、脳の中のイメージや過去のタオルについての体験など、それら全てを含んで評価されるものなので難しい。でもそこが面白いのです」

また使う側は「これは良くない」とは言ってくれても、「こういうのが欲しい」と具体的に指示してくれることはありません。「やはり最後は作る側がプロとして、お客様を引っぱっていくしかないと思います」というのが坂本さんの結論です。

「ホットマンでは一番良いタオルを、バランスが良いタオルと考えています。じゃあバランスが良いとはどういうことかと聞かれれも、言葉や数値にはしにくい。例えばこの糸を使うなら、柔らかさはこのくらいが良いとか複合的なバランス感を大事にしています」

初期のタオル自動織機

タオルの王道は柔らかさよりも吸水性

タオルを評価する時に、大きな指標となるのが「柔らかさ」です。

仮に、柔らかさ以外柄もサイズも値段も品質もすべて同じタオルが店頭に並んでいたとしたら、圧倒的に柔らかい方のタオルが選ばれます。

そのためタオルメーカーは店頭で柔らかく感じてもらうために製品に柔軟剤を加えて出荷しています。しかし柔軟剤はタオルの表面に付着すると、綿の吸水性を弱めてしまいます。購入して初めて使うタオルが汗や水を吸いにくいのは柔軟剤が大量に付着していることが最も大きな原因だと考えられます。

「お客様の中にはお肌の弱い方や化学物質にアレルギーを持った方もいるはずで、当社では柔軟剤を一切使っていません。タオルは素肌に触れるもの。だからこそ、誰が使っても安心安全が当たり前でなければいけません。多くのメーカーが売りやすい商品をつくっているのは無責任ではないでしょうか」

坂本さんは家庭での柔軟剤の使用について、メリットデメリットを理解した上で使用してもらいたいと言います。

「店頭での柔らかさを購入時の最も重要な判断材料にしてしまうのは、タオルを店頭で試用できないからかもしれません」

タオル本来の機能である水を吸う能力で選んでもらいたいと考えたホットマンが開発したのが「1秒タオル」です。肌に当てるだけで瞬時に水分を吸収してくれるので、お風呂上がりに肌をゴシゴシこする必要がなく、乳幼児の肌にも優しい使い心地を実感できるタオルです。

「ネーミングで分かりやすさを訴求しました。何よりも吸水性を前面に出した、王道のタオルだと思っています」

一貫生産にこだわるホットマンが長年培ってきたノウハウを活かし、綿の吸水性をとことん引き出した1秒タオルは、大ヒット商品となった。

「当社は国内生産にこだわっていますが、日本製だから高品質と思うのは、もはや間違った感覚だとおもいます。中国でも高い品質でものづくりをしている企業はたくさんあります。日本で生産すると、こんなことができる。だからこそ高品質になると説明できなければ意味がないのです」

東京都青梅市の本社工場内の「整経」工程